電気二重層コンデンサ スーパーキャパシタ
目次
構造と原理
電気二重層コンデンサは、誘電体を用いる一般のコンデンサとは異なります。
固体と液体の相異なる2相が接触すると、その界面に正負の電荷がきわめて短い距離を隔てて相対して分布します。この界面近傍に分布した層を「電気二重層」と称しています。
電気二重層コンデンサ“スーパーキャパシタ”は固体として活性炭、液体には希硫酸水溶液を採用していますが、活性炭と希硫酸水溶液を接触させた状態を図- 1(a)に、図- 1(a)の液体部分を共通にして2組を対向させて直列接続し、外部より電界を加えたときの状態のモデルを図- 1(b)に示します。
図−1 基本原理のモデル
スーパーキャパシタの基本構造の概念図を図- 2 に示します。
まず、ηは固体の単位あたりの電荷量、dは媒質(液体)の誘電率、δは固体表面からのイオン中心までの距離、ψは二重層電位をそれぞれ示すとすれば、ηは式(1)で表されます。
図-2 スーパーキャパシタ基本構造図
ヘルムホルツの理論より、電位勾配は電気二重層のみに存在するので、図- 2(a)(b)のポテンシャルが描けます。今、図2 -(a)で無負荷時ψがψ0 とすれば、無負荷時のη0は式(2)で表されます。
次に、外部電界を加えた場合、図-2(b)のように界面に電荷が蓄積されてψ0 はψ1 となり、そのときη0 がη1になるとすれば、η1は式(3)で表されます。
前述の式(2)、(3)より式(4)が導かれます。
すなわち、外部電界によって、式(4)のη1に相当する電荷が電気二重層に蓄積できます。ここで、ψ0は数mV程度です。
水銀を電極として用いた実験によると単位面積当たりの蓄積容量は20〜40μF/cm2が得られます。水銀と同じ電極としての作用をこの活性炭が示すとすると、表面積1000m2/gの活性炭では200〜400F/gの容量が得られることになります。しかし、実際にはこれほどの高容量は得られていません。当社独自の技術により活性炭の表面を改質したり、比表面積を高めるなどしてかなり上記の値に近い値が得られるようになりました。
一方、電気二重層コンデンサを構成する物質に起因して電解質の分解電圧以上の電圧印加は原理的にできませんので所望の耐電圧を得るためにはコンデンサ基本セルを直列に接続する構造になります。
図- 3 はスーパーキャパシタの基本構造(コンデンサ基本セル)です。
図−3 基本構造コンデンサ(基本セル)
電気二重層現象は電極の細孔を有する粉末活性炭(固体)と電解液の希硫酸(液体)の界面に形成されます。また、セパレータ(多孔性有機フィルム)は+−電極(粉末活性炭)間のショートを防止し、かつ電解液(希硫酸)中のイオンを透過する構造を有しています。さらにこの両電極(粉末活性炭)の背面に導電性の集電電極を配置して、このコンデンサ基本セルに電圧が印加できる構造です。さらに電解液の封口と導電性材料の絶縁のため封止用ゴム(ブチルゴム主体)を電極の側面に配置しています。ここでコンデンサ基本セル内に封入する電解液の量は、活性炭の細孔内と多孔性有機フィルムの含浸に必要な程度であり、微量です。
コンデンサ基本セルの耐電圧は電解液の電気分解電圧で決まります。電気分解電圧は希硫酸中の水分により決まり、約1.2 Vです。最大使用電圧5.5 Vの耐電圧設計は、このコンデンサ基本セルを5枚以上直列接続することにより設計されます。(図- 4 参照)
コンデンサ基本セル間・粉末活性炭の相互間や粉末活性炭と導電性の集電電極の間の電気的接続を安定化させるために、一定の圧力を加えて外装する構造としています。
図- 5、6、7 はスーパーキャパシタの完成品の断面図です。
図−4 組立図の略図
図−5 スーパーキャパシタ自立形缶ケースタイプ断面図
図-6 スーパーキャパシタ樹脂モールドタイプ構造図(FM シリーズ)
図-7 スーパーキャパシタ構造図(FC シリーズ)
特長
スーパーキャパシタは、アルミ電解コンデンサと比較して内部抵抗が大きく(数百mΩ〜百Ω程度)リップル吸収用などの交流回路への使用はできません。したがって直流回路における電源バックアップ等の二次電池的な用途が主体となります。
以下に電源バックアップ用途のアルミ電解コンデンサおよび二次電池と比較してスーパーキャパシタの特長を示します。
コンデンサ | 二次電池 | |||
---|---|---|---|---|
スーパーキャパシタ | アルミ電解コンデンサ | NiCd電池 | リチウム二次電池 | |
バックアップ能力 | ○ | △ | ◎ | ◎ |
公害性 | − | − | Cd使用 | − |
使用温度範囲 | -40〜85 ℃(FR,FT) | -55〜105 ℃ | -20〜60 ℃ | -20〜50 ℃ |
充電時間 | 数秒 | 数秒 | 数時間 | 数時間 |
充放電回数 | 無制限(注1) | 無制限(注1) | 500回程度 | 500〜1000回程度 |
充放電時の制限 | なし | なし | あり | あり |
フローソルダリング | 可能 | 可能 | 不可 | 不可 |
自動実装対応 | 可能(FC,FMシリーズ) | 可能 | 不可 | 不可 |
安全性 | ガス放出(注2) | 発熱、破裂 | 液漏れ、破裂 | 液漏れ、発火、破裂 |
(注1)アルミ電解コンデンサおよびスーパーキャパシタには有限の寿命があります。しかし、適切な条件でご使用していただきますと、これらを組み込まれたセットの設計された寿命時間内は、十分に動作する性能をもっています。
(注2)電解液(希硫酸)中の水分が水蒸気となり,ガスとして徐々にリークしますので危険はありません。ただし急激に最大使用電圧を越えるような異常電圧を印加した場合などは液漏れ、爆発に至る場合があります。
セレクションガイド
バックアップ時間の算出方法
- バックアップ電流が1mA以上の場合
(FS、FT、FME、FE、FA シリーズが最適です。)(5)式により、概略のバックアップ時間を算出できます。
C: スーパーキャパシタの静電容量(F)
V0: スーパーキャパシタに充電されている電圧(V)
Vdrop: スーパーキャパシタの直流抵抗による電圧ドロップ(V)
V1: バックアップ回路の最小必要電圧(V)
I: バックアップ電流(A)電圧ドロップは、スーパーキャパシタの直流抵抗と、バックアップ電流によって決まります。
各品名の直流抵抗値(実力値)を表- 1 に示します。
また(6)式により、おおよその電圧ドロップ値Vdropを算出できます。Vdrop=RiI(6)
Ri: スーパーキャパシタの直流抵抗(Ω)
I: バックアップ電流(A)バックアップ電流値を定抵抗負荷にて換算した定抵抗放電特性についてはシリーズ毎に記載したデータシートをご参照願います。
- バックアップ電流が1mA 以下の場合
(FG、FM、FC、FR、FY シリーズが最適です。)
特に大きな電位ドロップは発生しませんのでバックアップ電流を定抵抗負荷に換算して、定抵抗放電特性からバックアップ可能時間を算出します。
バックアップ電流を定抵抗負荷に換算した定抵抗放電特性については、シリーズ毎に記載したデータシートをご参照願います。 - 使用環境温度
図−8 寿命推定
スーパーキャパシタの寿命に最も影響を与える外部因子は使用環境温度です。このときの使用環境温度は平均温度になります。
弊社ではスーパーキャパシタの静電容量が初期値の70%に減少した点を寿命と規定し推定を行っております。70℃以下において寿命は温度の10℃上昇により半減すると考え推定しています。寿命推定の例を図-8に示します - 過電圧寿命
スーパーキャパシタの寿命に影響を与える外部因子は環境温度の次に印加電圧であり、過電圧が加わった場合に影響が生じます。しかし印加電圧が使用最大電圧以下ではほとんど影響はありません。 - 故障率
スーパーキャパシタの故障率は、0.06Fitを推定しております。市場データを基に故障率を計算しますと約0.006Fitになりますが、故障として返却頂けない潜在故障がこの10 倍と見込み、0.06Fit と推定しました。 - スーパーキャパシタの長期信頼性には影響ありません。
- スーパーキャパシタの製造工程にて正方向に電圧が印加し処理しております。このために僅かな電荷が残っている場合があります。また、スーパーキャパシタ特有の現象で以前に印加されていた方向に電圧が復帰することがあります。逆電圧に弱い半導体等がありますと半導体等を損傷する場合がありますので注意が必要です。
- 図−10に正方向および逆方向に実装したときの電圧保持特性を示します。逆方向実装した場合は正方向実装した時に比較して電圧保持特性が悪くなります。逆実装した場合でも逆方向充電時間が、100 時間以上ですと、おおよそ、正方向で実装した場合の自己放電特性を示します。
- 直列接続
直列に接続したそれぞれのコンデンサに均等に電圧が配分されかつ、その電圧が最大使用電圧以下となるようご配慮ください。 - 並列接続
任意の並列接続が可能です。
漏れ電流
スーパーキャパシタを長時間充電したときの、充電抵抗器の端子間電圧により測定した充電電流を示します。充電電流は、時間の経過とともに減少していきます。更に充電を進めても、この充電電流は減少せずに一定値を示すようになります。
これを漏れ電流と定義します。
また漏れ電流の大きさは、一般に静電容量の大きさに比例しています。
寿命の推定
耐洗浄性
図−9 スーパーキャパシタ断面図(洗浄対応品)
FMシリーズを除くスーパーキャパシタの標準品は洗浄に対応できません。しかし、製品内部への洗浄液の浸透を防止した樹脂封口した製品を洗浄対応品として用意しております。
図− 9 は、その洗浄対応品の断面図を示します。また表-1 に洗浄対応品名一覧、表-2 に耐洗浄性能を示します。
表−1 洗浄対応品
シリーズ名 | 洗浄対応品名 | 未対応品名 | 備考 |
---|---|---|---|
FA | FAW・・・・・・ | FA・・・・・・ | W:洗浄対応品を示す。 |
FE | FEW・・・・・・ | FE・・・・・・ | |
FS | FSW・・・・・・ | FS・・・・・・ | |
FSH | FSH・・・・・・- W | FSH・・・・・・ | |
FYD | FYD・・・・・・- W | FYD・・・・・・ | |
FYH | FYH・・・・・・- W | FYH・・・・・・ | |
FYL | FYL・・・・・・- W | FYL・・・・・・ | |
FR | FRW・・・・・・ | FR・・・・・・ | |
FG | FGW・・・・・・ | FG・・・・・・ | |
FGH | FGH・・・・・・- W | FGH・・・・・・ | |
FT | FTW・・・・・・ | FT・・・・・・ | |
FM | FM・・・・・・ | なし |
表−2 洗浄対応品(樹脂封口品)の耐洗浄性
シリーズ名 | 品名 | 洗浄溶液 | 洗浄方法 | 洗浄時間 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
FA | FAW・・・・・・ | アルコール系 水 | 常温親戚 | 10分以上 | 洗浄方法を組み合わせる場合は、 トータル10分を超えないようにしてください。 |
煮沸、ペーパー | 2分以内 | ||||
温水(70℃以下) | 2分以内 | ||||
超音波 | 1分以内 | ||||
FE | FEW・・・・・・ | 同上 | 同上 | 同上 | 同上 |
FS | FSW・・・・・・ | 同上 | 同上 | 同上 | 同上 |
FSH | FSH・・・・・・- W | 同上 | 同上 | 同上 | 同上 |
FYD | FYD・・・・・・- W | 同上 | 同上 | 同上 | 同上 |
FYH | FYH・・・・・・- W | 同上 | 同上 | 同上 | 同上 |
FYL | FYL・・・・・・- W | 同上 | 同上 | 同上 | 同上 |
FR | FRW・・・・・・ | 同上 | 同上 | 同上 | 同上 |
FG | FGW・・・・・・ | 同上 | 同上 | 同上 | 同上 |
FGH | FGH・・・・・・- W | 同上 | 同上 | 同上 | 同上 |
FT | FTW・・・・・・ | 同上 | 同上 | 同上 | 同上 |
FM | FM・・・・・・ | 同上 | 同上 | 同上 | 同上 |
逆実装した場合の影響
図−10 正方向および逆方向実装したときの電圧保持特性