YAGEOは1977年の設立で、台湾台北市に本社を置き、アジア、ヨーロッパ、北中南米に多数の生産・販売拠点を持つ世界有数の電子部品メーカーです。
KEMETは、2020年にYAGEOの子会社となり、日本市場においては、株式会社トーキンがKEMETブランド製品の販売を推進しています。
KEMETのフィルムコンデンサは、高耐圧、高許容電流、高周波、小型化、低背化、高温高湿負荷試験をクリアした過酷な使用環境条件に対応した製品など、豊富なラインアップを備えています。これらは、xEV向け車載充電器(OBC)や車載DC/DCコンバータ、風力発電や太陽光パネル用インバータといったグリーンエナジー用途、さらには電力変換システム向けインバータなど、幅広い分野で採用されています。
YAGEOグループとKEMET製品の販売について
YAGEOグループについて
YAGEOは現在、チップ抵抗器で世界第1位、ポリマータンタルコンデンサで第1位、MLCCと電源インダクタ、車載マグネティックスで第3位にランクされており、全世界で29の販売拠点、51の生産拠点、20の研究開発センター、40,000人の従業員という強力なグローバルプレゼンスを持っています。
KEMETは、フィルムコンデンサ全体で世界シェア第4位を誇る。その中でも、車載充電器(OBC)向けは世界シェア1位、車載DC/DCコンバータ向けでは世界シェア4位の地位を確立しています。また、用途としては、電力変換、DCフィルタ、EMIフィルタ、産業用モーターなどが挙げられます。今後は、xEV向けのDCリンクコンデンサや、グリーンエナジーおよび電力変換システム分野に注力し、さらなる市場の拡大を目指していきます。
KEMET製品の販売・品質保証体制について
KEMETフィルムコンデンサは、イタリアのR&Dセンターで製品開発や材料の選定などを行っています。製品のラインアップに応じて、イタリア、マケドニア、フィンランド、ブルガリア、インドネシア、中国の2工場を含む世界7カ所の工場で生産を行っている。 完成した製品は各工場から香港を経由し、日本の顧客または日本顧客の中国工場へ納入されます。
日本市場における本製品の販売およびデリバリーの責任は、トーキンのセールス&マーケティング本部が担当し、東京、名古屋、大阪の地域営業が製品の拡販ならびに窓口対応を行います。既存のKEMETとの商流は継続され、新規の商流については、各地域営業が対応し、必要に応じて代理店経由での販売も行います。
また、本製品の品質保証および技術サポートは、KEMET製品担当FAEがその窓口として対応することで、万全のサポート体制を提供しています。

KEMETフィルムコンデンサの構造と特長
フィルムコンデンサの技術
フィルムコンデンサは、セラミックコンデンサやアルミ電解コンデンサに比べ、絶縁抵抗が高く、容量変化が少ないという特長があります。また、特にインバータ用途では、高耐電圧、高電流、耐久性、長寿命、高信頼性、安定性が求められます。これらの要求に応えるため、KEMETは多彩な製品ラインアップを提供しています。
KEMETのフィルムコンデンサは、PP、PET、PEN、PPS、紙など、さまざまな誘電体材料を使用して製造されています。なお、パッケージ形状にはラジアルリードタイプとSMDタイプがあります。(PPは耐熱性がやや弱いため、ラジアルリードタイプのみ)
フィルムコンデンサの製品ラインアップ
KEMETのフィルムコンデンサには、小電力向けのDCフィルムコンデンサと中・大電力向けのACパワーフィルムコンデンサがあり、それぞれの用途に応じてラジアルリードタイプ、SMDタイプや円筒型アルミ缶タイプ、ブリックタイプなど、さまざまなラインアップを提供しています。これらは、電力変換システムにおけるEMIフィルタ、DCリンク / DCフィルタ、PFC、パルス / スナバ、ACフィルタなど、幅広い用途で応用されています。
フィルムコンデンサの製品ラインアップ
フィルムコンデンサに求められる技術トレンドは以下の通りです。
■電気的特性:高耐電圧、高許容電流、高周波対応
■構造:小型化、低背化、エネルギー密度の向上
■耐環境性:高温、高湿度への対応
KEMETは、これらのトレンドに応えるため、新たなラインアップの展開に積極的に取り組んでいます。
電力変換システム向けフィルムコンデンサ
電力変換システム向けフィルムコンデンサの用途
電力変換システムにおけるフィルムコンデンサの構成図と、それぞれの用途に対応したKEMETフィルムコンデンサのラインアップは以下の通りです。
電力変換システムの入力側では、エネルギー源として、交流の風力発電、商用電源や直流の太陽光パネルや電池が想定されます。また、出力側では、交流のモーターや直流の電池、車載機器などが想定されます。このように交流や直流が混在するため、必要に応じてAC/DCコンバータやDC/DCコンバータを利用して電力を変換します。
このシステム内では以下の用途に応じたフィルムコンデンサが使用されます。
① EMIフィルタ:雑音ノイズを除去するXコンデンサ、Yコンデンサ
② パルス / スナバ回路:パワー半導体やスイッチング素子を効率的に駆動し、デバイスから発生するリンギングノイズを抑制するコンデンサ
③ ACフィルタ:AC入出力のノイズを低減するためのフィルタ用コンデンサ
④ DCリンクおよびDCフィルタ:各段での直流電圧を平滑して安定化を目的とするコンデンサ
EMIフィルタ
下図は、電力変換システムの一例として、三相交流を入力とし、インバータでモーターを駆動する仕組みを示しています。入力から順に、EMIフィルタ(電磁妨害)、PFC(力率改善回路)、DC/DCコンバータ、インバータというブロック構成です。
このEMIフィルタに使用されるコンデンサは、セーフティキャパシタ(安全コンデンサ)と呼ばれる重要な部品であり、IEC60384-14に適合しています。また、ENEC(ヨーロッパ)、UL(アメリカ)、cUL(カナダ)、CQC(中国)など、各国の安全規格の認証を取得済みで、信頼性が高いことが特長です。
Xコンデンサ
EMIフィルタでは、XコンデンサとYコンデンサが高周波ノイズの低減や電磁干渉の抑制に使用されます。Xコンデンサは主に電源ライン間に接続され、ノーマルモードノイズを抑制します。一方、Yコンデンサは電源ラインと接地(GND)間に配置され、コモンモードノイズを抑制します。
Xコンデンサには、X1 と X2 のサブクラスがあります。また、主に車載用途やグリーンエナジー分野向けには、THB(高温高湿バイアス試験)の評価が重要視されています。THB試験では、85℃/85%の高温多湿環境下でDCバイアスをかけて500時間実施する試験がグレードⅡB、1,000時間実施する試験がグレードⅢBと規定されています。
KEMETのフィルムコンデンサには、サブクラスX2向けとして、グレードⅡB対応のR52、グレードⅢB対応のR53、高耐圧対応のR53B、民生機器向けのR46がラインアップされています。また、サブクラスX1にはR47、R58が揃っています。
Yコンデンサ
Yコンデンサにも、Y1 と Y2 というサブクラスがあります。KEMETのサブクラスY2向けとして、グレードⅡB対応のR41P、グレードⅢB対応のR41DやR41T、高耐圧対応のR41B、さらに民生機器向けのR41がラインアップされています。また、サブクラスY1にはR4Yが揃っています。
DCリンク / DCフィルタ
DCリンク用コンデンサは、PFCとDC/DCコンバータを接続するDCリンクおよびDCフィルタにおいて、直流電圧を平滑化して安定化するために使用されます。 フィルムコンデンサは、アルミ電解コンデンサと比較して信頼性が高く、大電流にも対応しています。
KEMETのDCリンクおよびDCフィルタ用フィルムコンデンサは、最大動作温度125℃または135℃に対応し、最大温度の寿命時間は200時間から4,000時間まで幅広くカバーしています。また、THB試験において、60°C/95%または85℃/85%の高温多湿環境下でDCバイアスをかけた1,000時間の試験に対応した様々なラインアップが揃っています。
DCリンクおよびDCフィルタ用の製品には、標準モデルであるC4AQをはじめ、C4AQ-M、C4AQ-P、C4AU、C4AKがラインアップされています。一般的に、PP(ポリプロピレン)を使用したフィルムコンデンサは熱に弱いとされていますが、KEMETは独自技術を活用することで、135℃の高温環境でも動作可能なC4AKを開発しました。
KEMETのソーラーインバータ向け製品には、円筒形のアルミ缶タイプであるC44U-MおよびC44U-Tがあります。このアルミ缶タイプのラインアップは、現在も徐々に拡充されています。新製品のC44U-Tは、長寿命や85℃/85%という厳しい環境条件に対応する性能を強化しており、UNI EN 45545という鉄道車両の防火規格に準拠しています。そのため、鉄道のインバータなど、特定の産業用途にも対応する製品です。
| C44U-M | C44U-T | |
|---|---|---|
| 容量範囲 | 90µF~2,100 µF | 90µF~4,500 µF |
| 耐圧電圧 | 600V~1,800V | 900V~1,800V |
| 最大動作温度 | 85℃ | 105℃ |
| THB試験 | - | 85°C / 85%RH,1,000時間, VR(DC) |
| 適合規格 | - | UNI EN 45545-2: 2015 |
PFC(力率改善回路)
PFCは、電源回路で無駄なエネルギー損失を削減し、電力効率を向上させるための技術です。たとえば、xEVの車載充電器(OBC)やDC/DCコンバータにはPFC回路が搭載されており、充電時に電力損失を最小限に抑え、電源網への負担を軽減する設計が可能です。フィルムコンデンサの特長である耐熱性、高耐圧、長寿命、容量変化が少ないこと、またTHB試験対応の性能が、PFC回路に適しています。
KEMETフィルムコンデンサのPFC 向け製品は、R71およびR71Hです。車載向け受動電子部品の信頼性における世界基準の規格AEC–Q200に適合しています。
| R71 | R71H | |
|---|---|---|
| 容量範囲 | 0.01uF~22μF | 0.033 µF~22 µF |
| 耐圧電圧 | 420V~1,000V | 450V~630V |
| 構造 | シングルメタライズド | |
| 最大動作温度 | 105℃ | 125℃ |
| THB試験 | - | 40°C / 93%RH,1,000時間, VR(DC) |
| 適合規格 | - | AEC–Q200 |
パルス回路 / スナバ回路
パルス回路は、高速スイッチングデバイス(例えばMOSFETやIGBTなど)を効率的に駆動するために、特定の波形やタイミングを生成する回路です。また、スナバ回路は、スイッチングデバイスを保護し、発生するリンギングノイズを抑制して動作を安定化させるための保護回路です。フィルムコンデンサの特長である高耐圧、耐熱性、長寿命、高信頼性という性能がパルス回路およびスナバ回路に適しています。
KEMETのパルス回路およびスナバ回路向け製品には、R75H および R76Hがあります。R75Hに使用されているシングルメタライズド構造は、ポリプロピレンに金属を蒸着した設計です。一方、R76Hはダブルメタライズド構造を採用しており、ポリエステル(PET)の両面に金属蒸着をし、その間にポリプロピレンを挟んでいるため、大電流に対応できる点が特長です。
| R75H | R76H | |
|---|---|---|
| 構造 | シングルメタライズド | ダブルメタライズド |
| 容量範囲 | 0.001 µF~33 µF | 470 pF~12 µF |
| 耐圧電圧 | 160V~2,000V | 250V~2,000V |
| 最大動作温度 | 125℃ | |
| THB試験 | 85°C / 85%RH,1,000時間, VR(AC/DC) | |
| 適合規格 | AEC–Q200 | |
ACフィルタ
ACフィルタは、交流電源入力に重畳するノイズや、モーター駆動の交流AC出力ラインに重畳するノイズを除去して、動作を安定化させる役割があります。
KEMETのACフィルタ向けの製品は、C4AF-TやC4AF-Fです。C4AF-Tは、THB試験が1,000時間に対応し、C4AF-Fは1,500時間に対応しています。
| C4AF-T | C4AF-F | |
|---|---|---|
| 特長 | 高リップル電流 | 小型化・改良版 |
| THB試験 | 85°C / 85%RH,1,000時間, VR(AC) | 85°C / 85%RH,1,500時間, VR(AC) |
| 容量範囲 | 1µF~62µF | 1.5µF~75µF |
| 耐圧電圧 | 250VAC~600VAC | |
| 最大動作温度 | 105℃ | |
まとめ
KEMETのフィルムコンデンサは、世界の市場で培われた独自の技術、品質、生産性を大きな強みとしています。KEMETによる品質保証、確実なデリバリー体制に加え、日本国内では、トーキンの強力な販売サポート体制により、市場ニーズに応える信頼性の高いサービスの提供を可能としています。
KEMETのR&Dセンターでは、新製品の開発をはじめ、フィルム、樹脂、ケース、メタライズ材料、パターン設計など、フィルムコンデンサに必要とされる新材料の研究に取り組み、最先端の製品を生み出しています。次世代のxEV、再生可能エネルギー、産業用途の電力変換システムなど、多様化するシステム要件に対応するため、今後もKEMETのフィルムコンデンサは進化を続け、幅広いソリューションを提供していきます。





